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大阪家庭裁判所 昭和51年(家)2866号 審判

申立人 寺本賢(仮名)

相手方 谷沢康文(仮名)

主文

被相続人亡谷沢源次郎所有名義の下記祭祀財産の権利承継者に次の者を指定する。

本籍 岡山県○○郡○○町大字○○×××番地

住所 神戸市○区○○通×丁目×番×号

谷沢康文

明治四二年一一月二八日生

一  岡山県○○郡○○町大字○○字○○×××番

墓地二三平方メートル

二  同上所×××番

墓地二三平方メートル

理由

一  申立人は主文と同旨の審判を求め、当裁判所の調査及び審理の結果によれば次の各事実が認められる。

(一)  主文掲記の各墓地(以下「本件墓地」という。)は、被相続人亡谷沢源次郎の所有であり、登記簿上も同人の所有名義となつていたが、同墓地には宝暦年間以降の被相続人の先祖代々の遺骸が埋葬され、墓標や墓石が数多く置かれているため、昭和二二年法律第二二二号に基づく改正前の民法(以下「旧民法」という。)第九八七条及び現行民法第八九七条所定の墳墓に準じてこれと同様に取り扱うべきものと解するのが相当である。

(二)  そして旧民法第九八七条の規定によれば、墳墓の所有権は家督相続の特権に属するものとされているところ、戸主である被相続人は大正二年九月二一日死亡したが、同人には旧民法第九七〇条以下及び第九七九条の規定に基づく法定又は指定の家督相続人がなく、また当時は同人の母谷沢いね(天保六年一一月一五日生)が生存していたものの、同人も同法第九八二条の規定に基づく家督相続人の選定をせずに大正六年八月四日死亡し、その後も家督相続人の選定がなされないまま終戦後の民法の改正によつて現行民法が施行されるに至り、民法附則第二五条の規定によつて、墳墓に準ずべき本件墓地の所有権については現行民法第八九七条の規定が適用されることになつたものである。

(三)  そして被相続人である亡谷沢源次郎が民法第八九七条第一項所定の祖先の祭祀を主宰すべき者を指定した形跡はなく、また本件に関して祖先の祭祀を主宰すべき者に関する慣習の存在も明らかではない。

(四)  被相続人亡谷沢源次郎は生前農業をしており、また同人の三番目の弟である谷沢岩松(明治六年六月五日生)は明治三一年七月一五日分家して町に出て養鶏業を営んでいたが、同人らの母である谷沢いねは長男である谷沢源次郎が死亡した後は、同人が所有していた財産を売却して四男である谷沢岩松方に同居して同人に扶養されて生活し、谷沢いねの死後谷沢岩松も大正一四年五月二四日死亡した。

(五)  申立人と相手方とは、いずれも亡永田きくの非嫡出子として出生し、いずれも大正四年二月二五日父である谷沢岩松によつて認知されたが、大正一四年五月二四日谷沢岩松が死亡したため相手方が家督相続し、同年六月二二日その旨の届出をした。

(六)  その後は相手方が引続き本件墓地を管理して、亡父の兄である亡谷沢源治郎、父である谷沢岩松とその妻及び同人らの父である亡谷沢文治及び母である亡谷沢いねらの祖先の祭祀を主宰し、それぞれ墓石等も建立してお盆や被岸等には墓参をし、また各人の年忌には法事等を行つて供養を継続している状況にある。

二  したがつて以上の各事実からすれば、民法第八九七条第二項の規定により、被相続人亡谷沢源次郎が所有していた祭祀財産である本件墓地の所有権の承継者には相手方を指定するのを相当と認め、よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 富永辰夫)

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